ARX CHALLENGERS BLOG技術者ブログ
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2022/07/12
こんにちは。株式会社アイレックスの「禅次郎」と申します。
はじめに、筆者の経歴からお話します。
私は、コンピュータグラフィクス(CG)やバーチャルリアリティ(VR)などを中心に長年、企業で研究開発を経験、その後、地方行政職を経て、システムエンジニアに転身しました。
最近はもっぱらWeb系システム開発の要件定義や設計の業務に携わることが多くなっています。
まず、筆者のCGとの出会いは学生時代に遡ります。当時の研究室では樹木や山岳、炎などの自然景観・自然現象の表現が主要テーマとされており、表現する対象はどうであれ「リアリティの追求」の研究が盛んに行われていた時代です。
その後、企業での研究開発の活動の場に身を転じ、さまざまな分野でのCGやVRのビジネス活用の可能性を模索する日々がスタートすることとなりました。当時のCGと言えばもっぱらゲーム、映画やCMのタイトル制作などでの活用が盛んな時代でした。
CGのビジネス活用にとって明るい材料となったのは、1990年代のコンピュータの「低価格化」と「GPUなどの性能向上」、「CG用ソフトウェアの充実」となります。これにより、CGが身近な存在となり、CGに触れる機会が多くなりました。
また、1990年代初めには「VR(仮想現実)」の技術が登場し、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)等のVR用機材を使用し、リアルタイムでCG表示される仮想空間をあたかも現実にあるかのような「仮想(バーチャル)体験」を可能としました。
21世紀に入り、「リアルタイムCG表示」が一般化し、CGやVRのビジネス活用に広がりをもたらしています。
・製造:商品や空間のデザイン
・商品の販売促進:製品カタログ・取扱説明書、店頭・Web向け販促ツール
・教育:教材
・デジタルアーカイブ:文化財のアーカイブ、CG映像(展示会・博物館・美術館向け)
・・・
最近注目されている「DX(デジタルトランスフォーメーション)」について、DXの概念を具体化する新しいサービスがニュースサイトを賑わすなか、CGやVRなどの分野では、「XR(クロスリアリティ)」という言葉が広く注目されています。
そこで、今回はDXにおいてXRを活用することが、どんな分野でどんな活用に期待できるのか、その活用例を中心にお話したいと思います。
DXとは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)のことです。
簡潔に表現すると、「デジタル技術を活用した社会・顧客ニーズを基に、製品・サービス・ビジネスモデルを変革し、業務や組織、企業文化・風土などを変革すること」を言います。
詳しくは、当社ブログ「DXを知り、変革する!!」をご参照ください。
XRは、「X Reality」の略称であり、「エックス・リアリティ」または「クロス・リアリティ)」と呼ばれます。
またXRは「Extended Reality」と呼ばれることもあります。
後述するVR(仮想現実)やAR(拡張現実)、MR(複合現実)など現実世界と仮想世界を融合した仮想現実の世界を、体験させる技術の総称です。
VRは「Virtual Reality」の略称であり、「仮想現実」や「人工現実感」と呼ばれています。
CG映像や全方位映像などで作成された仮想空間を、専用のHMD(ヘッドマウント・ディスプレイ)などのVR機材を介して体験・体感できる技術です。
仮想空間をあたかも現実空間のように表示し、体験・体感させる技術であり、人間の五感(視・聴・味・臭・触覚)を刺激することで仮想空間への没入感を与える技術です。
ARは「Augmented Reality」の略称であり、「拡張現実」と呼ばれています。
現実世界の撮影映像にデジタルを活用し作成された仮想世界を重ね合わせた拡張現実の世界を体験できる技術です。
HMDやスマートフォンで撮影された現実世界の映像に、文字や画像などのデジタル情報を重ね合わせ表示することで、現実世界を拡張した拡張現実の世界を生み出します。
MRは「Mixed Reality」の略称であり、「複合現実」と呼ばれています。
現実世界の撮影映像とデジタルで作成された仮想世界を融合させた複合現実の世界を体験できる技術です。
VRが、「仮想空間への没入感」に焦点があることに対し、ARは「現実世界の仮想世界による拡張」に焦点があり、またMRは現実世界と仮想世界をより密に情報を重ね合わせる(複合する)ことに焦点があります。
商品プロモーションの分野では、自動車や家具・住宅用設備、不動産物件などの商品のプロモーションにXRを活用するプロモーション・マーケティング手法が注目されています。
自動車では、VRを活用し販売店のショールーム空間を疑似的に再現する「バーチャルショールーム」や、自動車販売店でのVRを活用した新車の試乗体験が実用化されています。
また家具やバスやキッチンなどの販売店では、ARを活用し住まい空間をシミュレーションするツールが実用化されています。自宅内でスマートフォンをかざし、購入前の家具などの商品を疑似的に配置することで、購入した際の住まい空間を体験することができます。
不動産では、VRを活用し賃貸マンションを疑似的に再現し、オンラインで360度の内覧を体験するサービスが実用化されています。
このようなXRを活用した商品の疑似体験は、生活者の商品の購買意欲を喚起し、また新しい商品のマーケティング手法としてその広がりが期待されます。商品プロモーション分野でのXRを活用した参考事例をご紹介します。
・引用事例
「Audi 世田谷 バーチャルショールーム(Audi Japan様)」(※)https://www.audi-setagaya.jp/ja/about-us/tourmakeview.html
「IKEA Place(イケア・ジャパン様)」(※)https://apptopi.jp/2018/02/03/ikea-place/
「快適マンスリー(明和住販流通センター様)」(※)https://www.kaiteki-monthly.com/
製造の分野では、「工場見学」や「製品のデザイン・評価」、「仮想工場」でのXRの活用が注目されています。
工場見学では、VRを活用しお酒やビールなどの製品や印刷の生産工程の空間を疑似的に再現し、自宅にいながらオンラインで見学(視聴)を可能とする「バーチャル工場見学」が実用化されています。
また製品のデザイン・評価では、VRを活用した自動車車体のデザイン・評価や、VRを活用した自動車の運転シミュレータを開発、運転感覚を評価するシステムが実用化されています。
仮想工場とは、工場内の生産活動を事前にコンピュータで試行・評価することをいいます。福島第一原発では、廃炉作業のシミュレーションにVRを活用する事例が報告されています。
製造分野での活用事例をご紹介します。
・引用事例:
「バーチャル酒造見学(日の丸醸造様)」(※)https://hinomaru-sake.com/vrfactorytour
「オンライン工場見学」(国立印刷局様)(※)https://cdn.doitvr.com/noshare/gbO9o83vI2iwa7MpdLxVzrFt/
「3DのVRツールを世界規模で導入…空間に線を描いて車両をデザイン」(※)https://response.jp/article/2019/05/08/322082.html
「VRで自動車開発を効率化」(※)https://news.panasonic.com/jp/press/data/2019/10/jn191023-1/jn191023-1.html
「福島第一原発の内部をVRで体験--廃炉に向けた作業のシミュレーションに活用」(※)https://www.tepco.co.jp/press/release/2018/1483173_8707.html
教育の分野では、「VR授業・研修」や「ARを活用したデジタル教科書」、「遠隔授業(リモート授業)」が注目されています。
「VR授業・研修」では、VRの疑似的体験の特徴を生かし、教室にいながら世界中を社会見学したり、リアルなシミュレーションによる教育訓練が実用化されています。今後、以下のような学習・訓練にVR活用の広がりが期待されます。
・社会科見学(校外学習)
・理科などの実験、実習
・防災訓練、職業訓練
・英会話などの語学学習
また、「ARを活用したデジタル教科書」では、ARの現実拡張の特徴を生かし、教科書などの教材にスマートフォンやARメガネなどを通し、テキストや画像、動画で解説を表示する教材が実用化されています。今後、以下のような学習にAR活用の広がりが期待されます。
・教科書や問題集などの学習
・図鑑などの解説
・英会話などの語学学習
「遠隔授業(オンライン授業)」では、VRでの「臨場感(あたかも実際にその場所にいるかのような感じ)」の特徴を生かし、教室をVRで再現(または現実の教室を撮影)し、HMDやARメガネなどを通して参加する授業が実用化されつつあります。
教育分野でのXRを活用した参考事例をご紹介します。
・引用事例
「VR講義・VR授業が始まりつつある!?(事例5選)」(※)https://lipronext.com/blog/vrclass/
「VR空間を活用したオンライン会議」(※)https://group.ntt/jp/nttxr/topics/topics00067/index.html
デジタルアーカイブとは、城郭や遺跡、文化財などの歴史的価値の高い文化遺産や自然環境(世界遺産)などを文書や映像などのデジタル情報を活用し記録、データベース化することをいいます。
歴史的価値の高い文化遺産などにデジタル情報を活用し「記録、保管」することで、消滅・劣化・損傷した歴史遺産を再現し後世への伝承を可能とします。
この分野ではXRの活用により、消失した城郭や風景などを仮想的に再現し現実空間との融合により、利用者へ「新しい歴史体験(タイムスリップの体験)」を提供します。デジタルアーカイブ分野でのXRの活用事例をご紹介します。
・引用事例
「仙台城VRゴー」(青葉城資料展示館様)(※)https://honmarukaikan.com/vrgo/
「伊達な歴史の新体験」(仙台市文化観光局観光課様)(※)https://sendai-vrtour.jp/ja/pc.html
「平泉タイムスコープ」(株式会社キャドセンター様)(※)https://www.cadcenter.co.jp/works/archives/68
ここまで、いくつかの分野ごとに、XRの活用事例をご紹介してきました。
どの分野においても、XRを活用した仮想現実システムでは「体験」がひとつのキーワードとなり、利用者へ新たな価値を提供します。
ここでは、開発ベンダーの視点で、開発に失敗するケースとその留意点を幾つか取り上げてみます。
<XRの開発に失敗するケース>
・「どんな体験により、顧客にどんな付加価値を提供するのか?」そのコンテンツの企画が十分実施されていないケース
・技術スタッフが主体となってXRの活用を推進するケース
・初期的には、数件の顧客へのVRシステムの導入を行い成功するが、その後、顧客への導入が広がらずプロジェクトや事業が頓挫してしまうケース
<XRの開発に失敗しないための留意点>
これらの失敗するケースを参考にすると、XR活用の推進では、
・実現するシステムの狙い(どんな体験・価値)の仮説をたてること。
・技術起点ではなく、営業・企画・制作・技術が連携したチームで一体となって推進すること
・マーケティングの「戦略」をしっかりたてること
が重要であり、それぞれの工夫が必要となります。
今回は、筆者のこれまでのCGやVR関連の開発経験から、DXを推進するXRの活用例を中心にお話をしました。
今後DXを具体化する多くの場面で、XRはDXを推進する一技術としてその役割を果たしていくのではないでしょうか。
また、「DX × XR」のサービスの具体化にあたっては「利用者にどんな体験・体感を提供するか(体験・体感の設計)」が鍵となります。
これから、「DX × XR」のサービスを推進する方、開発する方の参考になれば幸いです。
最後に、筆者の在学時代の恩師は「いつか現実と仮想の境界のない自然景観のなかを散策してみたい」と話されておりました。
筆者にはいまだ恩師の言葉への答えがみつかりません。今回の投稿の機会を与えてくれた皆様に感謝し結びといたします。
最後まで、おつきあいいただきありがとうございました。
禅次郎